第34回 日本超音波検査学会

郷中教育とは

 郷中教育は、今から400年以上前に確立され薩摩藩独特の青少年教育のことです。郷中の「郷」とは方限(ほうぎり)とも呼ばれ、薩摩藩の地域を小単位に分けたいわば町内会のようなもので、郷に住む6歳以上の男子が郷中教育の対象となりました。年齢により階層がわかれており、6歳から元服前の15歳未満までを稚児(ちご)、元服後から24.25歳(細かいですね)までを二才(にせ)、それ以上の若者は長老(おせ)と呼ばれていました郷中教育では先生というような特別な存在はなく、先輩後輩のように上のものが下を指導するということが、学問だけでなく、武術、心の鍛錬に関しても細かく行われていました。その教育方法は上(藩)で定めたものではなく、自主性を重んじて郷ごとに独自に行われており、長老(おせ)でも卒業がないのも特色です。島津日新斎忠良の記した「薩摩(日新公)いろは歌」は郷中教育の教典ともいうべきもので、特にその第一首は代表名歌であり、郷中教育の最も基本となる理念を歌ったものです。今回の学会のテーマを郷中教育にしようと思い立ったのも、実はこの歌から発想したものです。他にも現代の人材育成においても重要なエッセンスとなる歌がたくさんありますので、その一部を下記に紹介します。

第1首:い「いにしえの 道を聞きても 唱えてもわが行ひにせずば甲斐なし」
昔の賢者の立派な教えや学問も口に唱えるだけで、実行しなければ役に立たない。実践実行がもっとも大事である。

第3首:は「はかなくもあすの命をたのむかな 今日も今日もと学びをばせで」
用があるといって明日にのばし、明日はあすとて疲れたといって次に延ばし、 一向に勉強せずに日々を送るのは心得違いである。毎日毎日勉強せよ。

第18首:そ「そしるにも二つあるべし大方は 主人のためになるものと知れ」
臣下が主人の悪口を言うのは二通りある。主人を思うあまり言う悪口と、自分の利害から来る悪口である。主人たるものは良く判断して自分の反省の資とすべきである。上の立場にある人にとっての戒め。

第21首:な「名を今にのこしおきける人も人も 心も心何かおとらん」
後の世に名をのこした名誉ある人も、人であって我々と違いはない。心も同じであるから我々とて及ばないということはない。勇気を出して奮起して頑張ることが必要である。遠い存在としてあこがれるのでなく、自分のものとしなければ。

第38首:き「聞くことも又見ることも心がら 皆まよいなりみな悟りなり」
我々が見聞するものは、全て受け取る側の心がけ次第で迷いになったり、悟りになったりするものだ。常に優れたものを受け入れる心構えをしておくことが必要である。

 私たち超音波検査士も学校で習うことよりも実際の現場で、先輩の方から学ぶ、すなわち郷中教育のように各施設における教育制度が主流であるといっても過言ではないと思います。規模の大小ではなく、理念さえしっかりしていれば、大変優れた教育ができるのもこの教育の特徴です。実際各施設からすばらしい人材が出ていますよね。優れた人材をより多く輩出するには、指導者の責任も重大です。郷中教育に卒業がないように指導者も常に新しい知識を学ぶ姿勢を保ち続けること、自分だけの自己満足ではなく、後輩に教え伝える使命があるということを忘れないようにしなければ、このような教育制度は立ち行きません。上も下も一生勉強!ですね。